Late-onset anti-NMDA receptor encephalitis
:高齢発症抗NMDA受容体脳炎
Titulaer MJ, et al.
Neurology.2013;81(12):1058-63.
INTRODUCTION
抗NMDA受容体脳炎は、通常、小児および若年成人に好発する自己免疫性疾患であり、重度の精神神経症状が生じることがある。31人の45歳以上の抗NMDA受容体脳炎患者の臨床分析を報告し、この年齢層に関する特徴を述べる。
OBJECTIVES
45歳以上の患者における抗NMDA受容体脳炎の臨床的特徴および転帰を前向きコホートで観察研究する。
METHODS
NMDA受容体のNR1サブユニットに対するIgG抗体を有する661例を抗NMDA受容体脳炎とした。カットオフ年齢は、重症筋無力症のような他の自己免疫性神経疾患でも用いられている45歳とした。神経学的状態は修正Rankin Scale(mRS)スコアで評価した。免疫療法または腫瘍除去を開始してから4週間以内に持続的な改善が見られず、mRSスコアが4以上のままであれば初期治療は失敗とした。
RESULTS
高齢抗NMDA脳炎は若年 抗NMDA脳炎と比較し、男性の割合が高い(高齢:45% 若年:12%)、腫瘍の合併が少ない(高齢:23% 若年:51%)、前駆症状の発生が少なかった(高齢:26% 若年:54%)。また、症状の最大重症度(mRSスコア5%)が低く(高齢:74% 若年:88%)、集中治療を必要とする頻度も低かった(高齢:58% 若年:80%)。さらに、第一選択免疫療法(ステロイド、免疫グロブリン静注、血漿交換)の失敗例が多い(高齢:55% 若年:42%)という結果であった。(Table1)
記憶障害は45歳以上の患者でより頻繁に起こる傾向があり(高齢:16% 若年:7%)、痙攣発作の発生頻度は45歳以上の患者で有意に低かった(高齢:48% 若年:69%)。(Figure1)
24か月後の追跡検査では、良好な転帰(mRS
0-2)をたどったのは高齢:60% 若年:80% であった。(Figure2)多変量解析では、良好な転帰に関連する独立した因子として、若年であること、治療開始までの期間が短いこと、集中治療室への入院が不要であること、および追跡期間が長いことが示された。
DISCUSSION
抗NMDA受容体脳炎は、若年成人よりも45歳以上の患者の方が重症度が低いが、高齢の患者の方が転帰が悪いことが示された。これは高齢であり認知症などと間違われることでの診断の遅れや、加齢による生体予備能の低下に起因するものと考えられる。本疾患の80%は女性で、その51%は奇形腫を有するが、高齢患者の45%は男性で、腫瘍を有するのは23%のみで、奇形腫はまれであった。腫瘍の発見と脳炎の発症が時間的に密接に関連していることから、発症との関係が示唆される。高齢者ほど症状の重症度が低い理由は不明だが、この現象は他の自己免疫疾患でも報告されている。高齢者では自己抗体の親和性が低く、免疫環境が変化するため、自己免疫反応が弱くなると考えられている。45歳以上の患者では、抗NMDA受容体脳炎は男女で同程度の頻度で発生し、その症状から幅広い鑑別診断がなされることが多い。腫瘍に対するワークアップは、古典的な腫瘍随伴症候群に対して推奨されるものと同様にすべきである。診断および治療開始前までの期間は若年成人よりも有意に長い。
CONCLUSIONS
治療までの期間は本疾患の予後因子として知られている。より早期に診断され、治療されれば、予後が改善する可能性が高い。